新刊 古英詩『ベーオウルフ研究—フィン王の挿話における英雄 Hengest について—』 岩谷道夫 著

新刊 古英詩『ベーオウルフ研究ーフィン王の挿話における英雄 Hengest についてー』
岩谷道夫 著
A5判 紙装丁. vii+207p.
ISBN 978-4-900448-506


 古期英語で書かれた長編詩Beowulf『ベーオウルフ』は、前半、後半、二つの物語から成っている。『ベーオウルフ』は、架空の物語であるが、主人公ベーオウルフ、そしてベーオウルフが倒した怪獣と龍を除き、概ね実在の人物、国家が描かれ、また言及される出来事も、歴史的事実と考えられている。
 『ベーオウルフ』の前半の物語の中に、The Finn Episode「フィンの挿話」として知られている挿話がある(本書では「フィン王の挿話」と呼ぶ)。ベーオウルフは、友邦国家デネ(デンマーク)を苦境に陥らせていた怪獣グレンデルを倒すために、故国イェーアタスを出発する。そしてグレンデルを倒した後、デネの国王によって祝賀会が開かれ、ベーオウルフの偉業が讃えられる。そこで宮廷の詩人によって歌われるのが「フィン王の挿話」である。
 ベーオウルフの時代の数十年前、おそらく西暦5世紀の前半に、デネとフィン王のフレーザン(フリージアン)との間に戦があり、それについて表された古期英語の詩The Fight at Finnsburg『フィンズブルフの戦』の断片が残されている。『ベーオウルフ』の「フィン王の挿話」は、そのフィンズブルフの戦の終わった直後から始まる内容になっている。そこで極めて重要な役割を持っているのが、フレーザンに属するエーオタン(ジュート)である。フィン王の居城フィンズブルフにおける戦は、エーオタンのデネへの急襲で始まったのだった。そしてデネの側には、護衛隊長としてHengestヘンジェストという人物がいた。フィンズブルフの戦は決着がつかず、休戦となる。その後、もう一度戦があり、Hengestはデネを代表してフレーザンおよびジュートと戦い、デネを勝利に導く。「フィン王の挿話」の中で、ベーウルフの数十年前に活躍したデネの英雄Hengestは、ベーオウルフと同じような英雄として讃えられる。
 一方、フィンズブルフの戦と同じ頃に、アングル、サクソンとともにブリテン島に移住したゲルマン人部族ジュートの代表も、Hengestという名前で知られている。そこに「フィン王の挿話」に登場するデネのHengestと、興味深い名称上の符合がある。その場合、二人のHengestは同一人物であるのか、同一人物であるとすれば、Hengestはデネとジュートのどちらに属していたのかという問いが生じる。さらに、エーオタン(ジュート)はなぜフレーザンに属し、デネと戦ったのか、もともとエーオタンとはどのような人々で、どこに居住していたのか、さらには、デネに属していた英雄Hengestが、なぜデネの国王によってベーオウルフの前で賞讃されたのか、また、フィンズブルフの戦の後のもう一つの戦が、なぜ「フィン王の挿話」として『ベーオウルフ』に記されたのか、等の問題が生じ、そして、どのような状況のもとで古期英語による『ベーオウルフ』が成立したのかという問題も生じて来る。本書は、そのような様々な問題に対して、主に20世紀の『ベーオウルフ』研究の碩学、R W.Chambers チェインバーズ、そしてFr.Kraeberクレーバー、等に範を仰ぎながら、解答を追求しようとした一つの試みである。
型番 TO-14
販売価格 3,850円(税350円)
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