シェイクスピア その崩壊する世界

シェイクスピア『その崩壊する世界』
「トロイラスとクレシダ」「終りよければすべてよし」「以尺報尺」試論
山口 和世 著(鈴鹿医療科学技術大学教授)
A5判 266p. 紙装丁 イラスト付
ISBN: 4-900448-32-X

問題劇と呼ばれる 『トロイラスとクレシダ』、『終りよければすべてよし』、『以尺報尺』 は、また 「問題喜劇」 或は 「暗い喜劇」 と称されるところからも分かるように、非常に複雑で曖昧な性質を持っている。1604年〜1604年に、即ち、エリザベス一世の最晩年からジェイムズ一世の即位直後に執筆上演されたこれらの劇には、当然のことながら、最高統治者の死と交代が劇場人を含む当時の人々に与えた不安が濃厚に見られる。そこに展開される世界は、シェイクスピアの歴史劇、喜劇、ロマンス劇の世界とは異なり、観客を極めて不安定な状態に陥れる。
長い間等閑視されてきたこれらの劇のうち、第二次大戦後まず 『トロイラスとクレシダ』 が、そして最近ではあと二つの劇も大きな関心を呼ぶようになってきている。そのこと自体、これらの劇の特徴を語っている。二つの世界大戦を始めとして、各地に限りない惨劇を見てきた20世紀に生きる我々は、これまで我々の世界を支えてきた価値観が音をたてて崩れていくのを痛感せざるをえない。崩壊した伝統的価値観に代わる確固たる価値観を見出しえない方位未定の混迷状態の中に置かれた我々が、世紀の変わり目であると同時に、統治者の交代をみた時期に書かれたこれら三つの劇に共感を覚えるのは自然なことである。
登場人物が伝統的な英雄像から転落する 『トロイラスとクレシダ』、 女性主人公が伝統的難問解決物語におけるグリゼルダ系列の忍従型女性の枠組みから逸脱する 『終りよければすべてよし』、侯爵が 「変装した支配者」 という世俗神話的人物の踏襲に失敗する 『以尺報尺』、 これらの劇の世界はそのまま現代であり、登場人物は我々と重なる。
本書はシェイクスピアの問題劇を当時のコンテクストの中において考察することによって、それらが我々にとって如何に身近な劇であるかを述べたものである。
型番 TO-11
販売価格 3,500円(税318円)
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